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チーム梅!風邪を治すの巻


『Drコトー診療所』を最終回まで見て思う。

コトーは東京で最先端の医療に携わりながらも、何かを求めて島の診療所に来る。

んで、すげぇ手術とかこなしてる。

でも島の人間からは「出てけ」とか言われてる。

「女子高生を見殺しにした」とか在らぬ疑いかけられちゃってる。


そんな在らぬ疑いで視聴率を稼いでいる場合ではない。

ましてやコトー先生は島を出て行ってる場合ではない。






いっとくけど、うちの診療所の梅垣先生は間違いなくヤブだ。

在らぬ疑いではなく、確信だ。



私も今までよくドクターとの意見が食い違うたび

「あいつはヤブ医者だ!」

とか言っちゃってたわけだけど、訂正したい。ごめんなさい。


本当のヤブっつーのは、私が思う以上に如実(にょじつ)にヤブだった。

見まごうことなくヤブだった。

ヤブっつーか志村だった。





『志村』



昔、大好きな春夏秋冬のドリフターズで、志村けんがお得意の「医者コント」。


何度も志村が超耳の遠いアホなコントを繰り出すたび、子供ながらに「こんな医者は
いねぇよ!」って思ってた。





月日は流れて、私も社会に出た。

荒波にもまれた。

なんの因果か、医療の道を志した。

そして今年、診療所に配属された。




そこに、忘れかけていた志村がいた。

記憶の縁を志村がノックしてた。


志村より、志村寄り。




梅垣先生のファーストインプレッションは、結構なかなか。


なんつーか、ルパン系。


何の因果かルパン系。


ルパン2世はれる感じ。


年だけ結構いっちゃってるルパン。


ルパン(72)。


昭和初期るぱん。









結構イメージしにくいので、志村でいいです。






うちの診療所には、ゴールデンタイムがある。

ゴールデンタイムとは、ゴールデンコンビが診療所を守る時間だ。


ゴールデンコンビっつーのは、まぁもちろん私。
そして彼、梅垣銀次郎(愛称=梅)。


ひよっこと、おいぼれ。


ここ桃ヶ丘診療所には私と梅しか診療所にいない、暗黒の時間帯がある。


朝倉いずみと志村医者の夢のコラボ。


ちょっとした逢魔が時。




婦長が会議で、ベテラン看護師とうちの看板ドクターが往診の火曜の夜間。

私たちは二人きりになる。(+受付の事務さん)




私たちの間には、いつも微妙な空気が漂う。


お互いが、お互いに
『こいつ大丈夫かよー』
って思ってる。


平穏無事に終わりますように。


しかし、こういう時に限って、なぜか患者さんはたくさん来てしまう。









んでやっぱり診療開始してビックリ。




まさにデ・ジャブ。

(ルパンじゃなくて志村の方)







風邪の症状をトクトクと語る患者がいた。

やれ喉がどうだとか、鼻水がどうだとか、頭痛がどうだとか・・。

切実に苦しさ訴えてる。



それに対して梅垣のファースト・リ・ターン。




『あー?』




耳に手を掲げて、思いっきり「聞こえない」っつーポーズ。




うん、私の耳に異常なければ、この患者、かなりデカイ声。

80デシベルっつーくらい。


素直な患者は、も一度、最初から症状を説明し直してる。


さっきより分かりやすく簡潔に症状述べてる。


子供に言い含めるみたいに話してる。



それに対して、梅垣のセカンド・リ・アクション。


右耳に右手をあてがって、思いっきり



『あー?』





いっそ発声ですか?


思わず私の口まで『あー?』ってなる。




この人、明らかに難聴。


みみつんぼ。



私は慌てて、梅垣の横に駆け寄って、耳元ででっかい声で症状を訴えた。



どうにか聞こえた梅垣は、「うむ」と頷いて、胸の音を聞くと言い出した。


言い出したら聞かないアイツはセブンティー。



あきらかに難聴の医者に不信感募ってるリーマンの服をまくりあげて、胸板を出す。


私、このリーマン、ちょっと加藤茶に見えてきてる。

志村に翻弄される、しがないサラリーマン加藤茶。



梅垣が、胸に聴診器を当てる。


当てる。


当ててる。


ばっちり当ててる。


右肺に寸分の狂い無く当ててる。


当てたまま、口開けてる。


開けた口が『あー?』ってなってる。


『あー?』の形してる。





こいつ・・ぜってー聞こえてない。

星の金貨なみに聞こえてない。


なのにいっちょまえに『はい!大きく息吸ってー!』とか言ってる。


さっきから思いっきり息吸って、今まさに吐こうとしてる患者に言ってる。

タイミング大幅に狂ってる。


ポスト加藤狙う患者は、それでも素直に無理矢理に息吸い込もうとしてる。

肺の限界に挑戦してる。

吸って吸ってまた吸って状態。


星のカービーもそんなに吸わない。


診療所の酸素、総取り。



私の脳裏にパートのおばちゃんの乾いた笑い声が聞こえる。


そのうち聴診器、頭とかに当て出すんじゃないかと冷や冷やする。




したら今度は「血圧を測る」と言い出す。


風邪だっつーの。風邪に血圧関係ねぇっつーの。
血圧より喉見てやれっつーの。

でもアイツは、しゃかりきセッブンティ。

言い出したら止まらない。


加藤は(つーか患者は)ビクビク腕を出した。


駆血帯を腕に巻いて血圧を測る。


血圧っつーのは、駆血帯を空気で膨らませて血管に圧をかけながら、脈の音の有無で
計る。

きつくした駆血帯を少しずつ揺るませながら、最初に音が聞こえたとこが最高血圧。

音が聞こえなくなったところが最低血圧。


そう、音。

音次第、音まみれ、音が命。

それに果敢に挑むは難聴の70歳、梅垣銀次郎、湿気ったルパン顔。

BGM『サライ』




駆血帯を患者の腕に巻いた。

そして腕の動脈に聴診器を当てる。

これまたしっかり当たりきってる。


シャコシャコシャコシャコシャコ・・・


空気を入れて、駆血帯がパンパンになる。


リーマンの腕、めちゃめちゃ締められてる。


シューッと空気を抜きながら、聴診器からの音に耳を澄ます初老。


がんばれ、がんばれ梅!


私と患者と梅が見守る中、空気が抜けていく。
もしかして、結構順調?

やるじゃん!って私が顔を上げてみたときの梅の顔。


口半開き。


あ・・その顔・・。(見たことある・・)



案の定、梅は『下がちょっと聞こえにくいねぇ』なんつって、またシャコシャコ空気
入れて
る。


リーマンの腕、軽く血が止まってる。


指先、セクシーパープルになってる。


リーマンの顔、軽く般若。


それを2,3回繰り返して、やっと測れた血圧は
最高血圧『167』。


梅は我が物顔で『ちょっと高いですねぇ』とか医者っぽく言った。


あんだけ長い時間締めてたら、そりゃ血圧も上がる。


リーマンは真っ青になった腕をさすりながら「はぁ」と言った。

まさに、生志村。一人で集合。


私は名誉挽回と先生に『喉もちょっと見てください』と助言した。

これぞ、看護師の醍醐味。


梅は「うむ」と頷き、喉を見た。


『あーこれは赤くなってるねぇ、こりゃ痛いでしょう?』


患者は最初っから喉が痛いって言ってる。
痛切に3回くらい言ってる。


今はじめて彼の思いが医師に届いた。


『じゃあ、イソジン消毒』

指示が飛ぶ。

喉を消毒する。

私は綿棒にイソジンを付けて、梅に渡した。

梅は思いっきり喉もと消毒してる。

サラリーマンすげぇオエオエしてる。


でも、まぁこれにて一件落着。

薬を出したらお大事にっつー感じだ。

私は一息ついた。

だが、一息ついたのは私だけだった。


梅は尚も私に向かって手を伸ばしてくる。


私が不可解な顔をすると、

『イソジン消毒!』

と急かす。


えー、もう一回やんの?

そんな何度もやるもんだっけか?


私がもたついてると

『イソジン消毒二本!』

と数が増える。


二本って、そんなに喉消毒すんの?

どんだけ汚いんだっつーの。

つーかうがいさせろっつーの。


私はしぶしぶ二本の綿棒を渡した。


そしたらドクター梅、とんだ偉業にでやがった。


思いっきり、リーマンの鼻に綿球つっこんでる。


両鼻に綿球つっこまれ、リーマンは呆然。

私、唖然。


風邪って、鼻まで消毒したっけ?



会議室では課長とうたわれ、仕事をこなし、家では一家の大黒柱として子供たちに尊敬され、妻には頼りにされ、想像だけどそんな人生歩んできた人が、今、ここで、ひよっことおいぼれの前で、とんだあられもない姿。


私だってやんちゃな10代を超えてまで、鼻に綿球つっこんだ姿を人に見られたことはない。


リーマンは、半分犯されたような憔悴した表情で診察室を後にした。





梅は、やり遂げたような顔で、手を洗っていた。





私は心の中でサライを歌った。

歌おうと思ったけど、歌詞が思い出せなかった。

仕方がないから、中島みゆきにしておいた。









銀ぃんの龍ぅの背にぃ乗ぉってぇぇ





この前、梅と『銀の龍ってなんだ?』っつー話になった。


私が飛行機のことじゃない?というも、梅は納得しない。


そのうち梅はハッとした顔で

日本昔話のオープニングで坊やが乗ってる龍じゃないかと言った。





ない。




ないないないないない。












          チーム梅の冒険は続く。




ヤブ医者風邪



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