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すげぇ好きな女がいる。

彼女と血は繋がっていないが、兄弟の契りに盃を交わしてもいいと思うほどのイカした女だ。


そんな彼女、私の心のマンドリン、東海林みきが先日こんな書き置きをこっそりしていたわけ。



『25歳にして赤裸々な本を買ってしまいました。』





赤裸々な本て。




私は考えた。

ったく、みきったらまた『女性自身』でも買ってマスメディアに踊らされてるんだから。

同じ踊るならアニメディアでも買えっつーの。

あっちのほうが数段赤裸々。

買ってる姿も赤裸々。
読んでる姿も赤裸々。
レジで会計の途中に友達に見つかった瞬間なんて赤裸々以外の何物でもない。



まぁつまりさ、私たちの赤裸々なんてそんなレベル。



でも私はこれでも常にみきよりイニチアブル(主導権)を取ってきたと思ってたわけ。


『なになに?みきそんなことで赤面こいてんの?そんなん今の時代大したことないじゃん』って言うのが私の役割。




まあシビアに実質な経験値からいけば、

東海林みき→かめはめ波(選ばれた人しか出せないやつ)

加藤はいね→ハメハメハ人(村人みんなハメハメハ)

ぐらい違う。


みきは二十代前半で恋愛、結婚、出産、霊媒、事故、盗難とイベント盛りだくさんに経験値を稼いでいる。
かたや私、主人公の家の近くの森辺りで経験値上げてる。


似ている私たちがなぜこんなに違う人生を歩むのか。
それは土地柄だと思う。


彼女は広大な日本北端の地にいて、人生を謳歌してる。


おそるべき北海道マジック。
田中邦衛の唇が生まれた地。(伝説的!)
すべてがドラマティック。
ラーメン食べるだけでもドラマティック。





まぁ、でも私たちはそんな土地や派閥やプライベートの垣根を飛び越え、共に三つ編みの女学生のように日々を過ごした。


手を繋ぎながら登下校の坂道で

『みきったら子供なんだから、もー』っつーおませさんな私と

『はいね、アダルトー』とかいう訳の分からない賞賛でもって終始感心している美希。

そんな日々。
幸せな日々。



だから今回の『赤裸々な本』っつーのもしょせん「夏のバイク乗ってる人の黒のピチピチY型ランニング」っつーくらいの赤裸々度だと思ってた。










みきに会った。






あいつったら、思った通りに飛びついてきた。


『はいねー、あたしついにこの歳にしてなんとも赤裸々な本を買ったんだけど』


『なになに、どんな本?』
聞いてみた。


『クリ★ツーリストっつーんだけど』
さらっと答えた。


この時、私は『クリ』っつー華やかなセリフに、なんの因果応報も感じなかった。


よもや、私の隠された割れ目で眠っている虎の子を揺り起こされようとしてるなんて思いもしなかった。

まだ羽衣天女の「にょ」の字もない、私の股ぐらのマヤ(顔面真っ白状態の)にスポットライト浴びてるなんて思いもしなかった。



私は平和なここ日本で、この世の『クリ』っつー『クリ』とは別世界で生きていた。


だってそんなもんにイチイチ反応していたら、クリスマスなんて迎えらんねぇ、クリリンだって応援できねぇ、栗きんとんだって食べられねぇ、クリントンの演説聞けねぇ(聞いたことねぇ)。



だから私はなんの結界もはらずに

『へぇクリ★ツーリスト』

なんつって間の抜けたコメントでもってペロリとリピートし、ノーガードで応戦した。


『ネットに載ってるから調べてみ』
みきが言う。


『OK!』
二つ返事。


んで検索したわけだけど、
なんつーの、
そんなわけで、全くなんの用意もなかった私は、
髪の毛真っ白。
軽いマリーアントワネット。
微妙にブラックジャック。




検索ページには超ド級の広告。




『クリ★ツーリスト〜世界初クリ★トリスの絵本!』



絵本・・。


絵本って、「桃太郎」とか「金太郎」とか「浦島太郎」とか「だいこんどんむかし」とかのアレ?


お母さんが夜寝る前に布団の中で静かな声で読み聞かせてくれる例のやつ?





『知ってた?女の子だけはト・ク・ベ・ツ。世界でいちばん熱い場所……それはクリ★トリス!!』




し、知らねぇ知らねぇ。

そんなの知らねぇ。

私の辞書で世界でいちばん熱い場所は娯楽と堕落、人生の交差点「ラスベガス」だし、
はたまた、まだ見ぬ彼の家だし、
しからば、まだ見ぬ彼の母親と私の確執だし、
よって、その多くは、まだ私の目に触れたことのない未開の地であって、
まさか、まさか、こんなこんな近くに!というか自分の内部に潜んでいたなんて、これはもう灯台もと暗し!敵は本能寺にあり!



つーか
つーか
つーかさぁ!


この際、ぶっちゃけて話しようよ!


そのさー「★」っつーか、なんつーか、ベガスでネェチャンが胸に張ってそうな★!

それ取って話ししようや。


クリ★ツーリストなんつって、そんなつのだ★ひろと特許あらそうくらいの★型に私は誤魔化されねぇ。

目くらまし効かねぇ。


それにしても、えらいところにツーリストしたもんだ。
言っとくけど方位磁針効かないよ?
樹海だよ?
骸骨見つかるよ?
つーか屍(しかばね)になるよ?




とりあえず、礼儀だと、まくし立ててみた。


んで、一呼吸おいて、美希に返事した。





『拝見させてもらった。んでおめぇ買ったわけ?っつーか読んだわけ?』




彼女はそのツーリングの素晴らしさをトクトクと語った。

あの坂道はすごかったとか、
あの絶壁は迫力あってとか、
白糸の滝だとか、
100万ドルの夜景だとか。


んで彼女曰く

『是非はいねもお試しあれ』

『あの峠を二人で攻めたい』

となもし・・。




読みたくねぇ。
読みたくねぇ。


シシ神さまの土地には足踏み入れられねぇ。



しかし、みきに背中は向けられねぇ。
みきには足向けて寝れねぇ。
(私はいつも北枕)


私はノリノリでツイストかます勢いで
『じゃあ、あたし感想文書くよ!』
なんつっちゃって、もう、この軽い口が憎い。




そんなわけで、私はこの絵本。
封印の地の解体新書を買い漁ることとなった。



この絵本の厄介なところは、一般の本屋さんでは扱っていないところだ。


つーことは大型の書店に赴かなくてはならないわけで、
私の知ってる大型書店つったらば、
新宿の紀伊国屋ぐらいなわけ。



んで、おずおず行くわけで、
店内に入ると案の定思うわけ。



人、多いなぁ。



店、でかいなぁ。



私はとりあえず、芸能人コーナーや、エッセイの棚なんかを見てみた。


みつからねぇ。

姿あらわにしねぇ。

雲隠れ。


ちょろちょろしてる私に見かねた親切な店員が、サービスの腕を誇るがごとく

『お客様、何かお探しでしょうか?』

なんつって笑顔振りまいてくる。

ある意味、自分探しの旅。

しかも徘徊中。



クリ★ツー・・・って喉まで出かかった。

しかし、こんな危険なトラベルに彼女を巻き込めやしない。


私は心を鬼にして無視きめこんだ。




ほどなくして、ピンクの絵本がこっそり顔を出してる棚を発見した。


しかしその棚は、恐ろしく人気の棚コーナー。
新刊揃い踏み。
注目作目白押し。


トリビアの泉が1、2巻ドドント置かれて、ムラムラと立ち読みの人垣が出来ている。

たくさんの老いも若きもの衆が、無駄知識をむさぼってる。


負けられねぇ。


私が得ようとしてるのは、必要不可欠の知恵だ。
英知だ。


胸を張って、手に取ればいい。


私は大学生風の男の子とサラリーマン系のおじさんの間に割り込み、とりあえず、トリビアの2巻を手に取った。

クリは斜め左。

私は左右の気配を確認し、二人がへぇボタンを頭で夢中に連打してるのを悟ると、光速レベルで本を掴んだ。




手に入れた。

とりあえず手に入れた。






私は走って家に帰った。


んで、紐解いてみた。




裏表紙でこの絵本の英知をまざまざと見せつけられた。



そこには数人の女の子と、美しい葉っぱのアジアンチックな絵が描かれていた。


んで


「この絵の中にクリ★トリスが隠されています」っつー指令。


どんだけグローバルな指令なんだっつーの。

どんだけフランクな問題なんだっつーの。

いくらなんでもおめぇがウォーリー気取りかよ?
ナンチャンを探せ気取りかよ?



私は生まれて初めてこんな公式な場所でアイツを探した。


アイツはいつも、私の傍にいるのが当然で、空気みたいな存在で、アイツを探す事なんて、今までなかった。

ああ、この絵本は、そんなアイツの本当の姿を探す旅なんだなって実感して、ちょっと感動したりもした。



この絵本の冒頭の章では、私はアイツの生みの親に出会ったりなんかして、なんつーか『あなたの故郷がみたいの・・』みたいな甘い雰囲気になっていた。


こんなことなら、美希に感謝しなきゃな。
美希もきっといつまでもおぼつかない私のことを思いやって、この本を薦めてくれたのかもしれない。
なんつって、ページを捲って、友情決裂。




それは丁度、絵本の半分くらいのページ。

さあこれから!っつー所。

いよいよ核心に触れちゃうよっつー章。



『こっからは彼氏と二人で読んでね』的ページ登場。



『こっからは二人のためのアイツ』みたいなニュアンス。



『二人で幸せになるための具体的アドバイスページ』風味。



えっと。


一応、万が一のために、部屋を確認してみる。
見回してみる。


どうやら、やっぱり私一人。

定員一名。




いわゆる、ピンってやつ。



もう一度、ページを確認。


『二人のための!』


二人。

遠泳で言えば、バディー。

二人。

アイススケートで言えば、ペア。

二人。




一応、万が一、私に関係あったらいけないと思って、そっとページを確認してみる。

もしかしたら、ニアミスしてるかもしれないし。
もしかしたら、かすってるかもしれないし。



そこからのページには、彼氏にどうしてもらえだとか、
彼氏はこうだけど女的にはこうなのよとか、
あーだこーだあーだこーだあーだこーだ。





この絵本、半分、私、置いてきぼり。

半分千切ってあなたにあげたい!



それにしても・・・・




みきめ・・(一個)

みきめ・・(二個)

みきめっ・・(三個)

みきめみきめみきめ(四つ五つ六つ!)



私は裏表紙に戻って必死にアイツを探しあてた。
探しまくった。
漁り続けた。
親の敵のようにアイツを追い回した。


9個あった。




九つのアイツと私。




とんだ一人旅が終わった。





クリ★ツーリスト。


とんだ格安パック旅行だった。



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