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加藤家
徹底討論
女で候
   ・・・・・・・  ○

チャンネルは意のまま

出会って頃の笑顔を見せて!


面影を忘れない


ビックリすることがあった。


昨日午前中に図書館行ったの。

いい加減そろそろ婦長に知識の無さがばれそうで。

口のうまさで乗り切るのもソロソロ限界かと。


図書館なんて何年ぶり?
ひとまず超緊張しながら席についた。


図書館みたいな静かな場所に行くと、
自分という人間がいかに音を出す生き物であるかに気付く。

ペンを探す音。
本を開く音。
溜息。
イスをずらす音。





落ち着き無さ過ぎ。



とりあえず緩和医療の本を開きながらいくつかの症例に目を通す。


くらくらする。

首がカクカクする。


あーだめだ。
集中力が0。


私は一度大きく伸びをして、館内を見回した。


カッコイイ人でもいないかなぁ。


なーんて。


奥に座ってるおっさんメチャメチャ目が合うなぁ。
私のこと好きなのかなぁ。


その横の男の子、高校生っぽい。
受験勉強かな。

あれだよね、勉強する男の子って
こう
ほら
なんか…
いいよね。
(エロイ目)


あー斜め前の大学生風の男の子

私が前好きだった人にチョット似てるなぁ。


ちょっと地味な感じとか

ん?

集中すると口が開くトコとか

あれ?

シャーペンくるくる回すとことか

えっ?




似てるっていうか…



あれ?





本人だ!
そう思った瞬間、身体の中の血液が沸点に達した。


どーーーーーん


脈が太鼓のように一打ちし、
それからは乱れ打ち。

ドンドコドコドコドンドコドコドコ。




私は慌てて、俯いた。



私がマンガだったら今空中に汗マークが散ってる。




うそ!




なんで、ソースケ君が?!




まだコッチには気が付いてないみたいだ。




一気に眠気が覚めた。

アドレナリンが一気に駆け巡る。

血流を感じた。






(回想)


ソースケ君。

高校の時好きだった男の子。

恋は外見から入る私が
多分初めて内面から好きになった人。


彼は、ごく普通の男の子だった。

女の子が苦手で、男同士で遊ぶのが好きで、
男の子にはメチャメチャ好かれてて、
モノマネが上手くて、おもしろくて、

でも女の子が混じると、急に口数が減る。

そういう人だった。

話し掛けると、とても緊張して、でも一生懸命話してくれた。


ソースケ君の発案した
『ダンディーしりとり』(ダンディーな声でしりとりする)
一緒にやりたかったな。


でもその頃チャラってた私に、彼から話し掛けてくることは無かった。

いつも私の方から

『ねぇねぇソースケ君』

『なに、加藤さん?』

それが私とソースケ君の距離だった。



例えば部活に対する情熱とか、将来のこととか
そういうことをもっと上手に喋れれば
私たちの共通点は案外近くにあったと思う。


でも、それが出来なかった。

軽く、それでいて、ちょっと尖っていたい時期だった。

勉強うざーい。
親むかつくー。
だるーい。めんどー。
あの男メチャイケテル。
あいつオワッテル。

頭に花つけて、
青学とかの鞄もらって、
それをクタクタにして背負ったり、
ルーズを誰よりも引き延ばすコトとキレイにメッシュを入れることに命をかけていた時代。

女が苦手なソースケ君と同じ教室の真ん中でエロいことばっか大声で言ってた私。

ソースケ君にうまく近づくことができなかった。

(回想中断)






そのソースケ君が
いま…
こんなに近くに…。



顔が真っ赤になる。

勉強どころじゃないっつーの!

気付かれたらどうしよう。

声かけた方が良いのかな。



あ…

でも私…

今日、化粧テキトーだ。

思いっきりひっつめ髪だし。

ちょっと寝癖で前髪はねてるし。

いや、ソースケ君も前髪思いっきりはねてるけど。


あー。

気付いちゃったらどうしよう。

きまじぃぃぃぃぃぃぃぃ。

気まずかった。

それには理由があった。






(回想)

ソースケ君に告ったのは卒業してから1年ほどした夏だった。

久しぶりに飲み会で会ったら、
もう堪らなかった。

学校を卒業して、お互い住む場所も変わった。

告白したかった。

付き合いたいのもモチロンだったけど、

未だに地味で彼女の一人も出来ない彼に知って欲しかった。

君はメチャメチャ魅力的だと。

(回想中断)








あれから3年。

こんな図書館で、私はチラチラ彼を盗み見た。

高校時代に戻ったように
盗み見た。


変わっていない。

固そうで真っ黒な髪も。

うっすらニキビ面も。

色白さも。

でもバスケをやらせば超一流って感じの体つきも。


あの日は、君の中でどういう記憶になっているんだろう。

思いがけず、いまこんな傍にいる私をソースケ君が気付いたら、どんな態度を取るだろう。


ああ、ドギマギする。







(回想)

告白するその日、
私はソースケ君を電話で呼び出した。


メチャメチャ緊張した。


死にそうだった。


電話番号は1時間くらい躊躇った。


あぁぁああぁぁあ無理!って何度も途中で切った。

番号を入力してる時も

おいおい本気でかける気かよ?
って半分冗談みたいだった。


もう止めようって千回くらい思った。


半分やけっぱちで押した電話には彼の母親が出た。

高校名から名乗った。

携帯番号も知らなかった。

そのくらいの距離を、私は強引に繋げたかった。


ソースケ君を彼の家の近くの街道に呼び出した。

(回想中断)







私の医学書を読んでるフリはもう30分くらい続いている。

私がソウスケ君を盗み見る回数は天文学的数字に達している。


今、私が看護婦をしていると知ったら、どう思うだろう。

実は少しはまともなヤツだったんだと見直してくれるだろうか。

それともヤッパリ、医者の目当ての女だと思うだろうか。

一つだけ言いたい。

医者にまともな男なんていない。
みんなキチガイだ。


もしも。

あくまでもしも、今、声をかけたとして
2人の歯車がまた回り出すということは
あるのだろうか。







(回想)

10分で彼は来た。

私は目を凝らすようにずっと道を睨んでた。

小さな彼のツブが道の遙か先に見えた時、
私は逃げ出してしまいたくなった。

心臓がメチャメチャなリズムを打つ。

私は告白のセリフを心の中で何度もリピートする。

髪を整えた。


多分瞳孔はばっちり開いてる。

(回想中断)








何てコトを思いつつ、私は彼を何度も見てしまっていた。

多分いまも瞳孔は開いてる。

確率は上がるばかりだった。

彼と、目の合う確率。


そしてそれはついに来た。


彼がノートから顔を上げた瞬間、
私はうまく俯くことが出来なかった。


私は何気ないそぶりでどうにか目を反らした。

あなたなんて知らない、とばかりに。

何も気が付いてないように。


私がヤカンじゃなくて良かった。

ぴぃぃぃぃぃぃいいいって言って水蒸気を吹くようなものでなくて良かった。



ついに見つかってしまった。

彼は気が付いただろうか。


加藤はいねに。







(回想)

私とソースケ君は街道の真ん中で落ち合った。

『急に呼び出しちゃってごめんね』

『ああ、いいよ』

ココまでは台本通り。

でもイレギュラーは杖をついて歩いてくるお婆さん。

まさかお婆さんの前で告白するのも嫌だから、
私は彼女が通り過ぎるのを待った。

が、これがマイッタ。

お婆さん歩くのすげぇ遅い。

二歩進んで一歩下がるような動き。

『あ、あのね、ちょっと待ってね』

なんて、お婆さん待ちの変な沈黙が流れた。

ココまで呼び出されたら彼も告白を構えているはず。

それを私も知っている。

ぎこちない私たちの横を、ぎこちないお婆さんがゆっくりとすれ違っていく。

(回想中断)







私の視線はモチロン医学書に落ちている。

でも私の意識は視野のハジッコのうっすらと輪郭を映すソースケ君の手元に夢中だった。


目があって5分。


目があった後にもう一度彼を見るのは凄く勇気がいる。

また目があったら言い訳が聞かない。

怖い。


でも、好奇心。

私を見つけた彼が、いまどんな感じに勉強してるのか。

ぎこちなければ、気まずい。

集中してたら、悲しい。


3年前にした私の告白は、玉砕に終わった。

彼は大学に好きな女の子がいるのだという。

彼の流れる時間と、私の流れる時間が同じ世界にいながらも全く違うことに気が付く。

自分が特別に思った人に、自分も特別に思われているのではないかという錯覚。

でも、すっきりしたという本音もあった。

超ナゾな状態より、×でもはっきりした方が私は好きだ。






(回想)

『そっか。あー呼び出しちゃってごめんね。んじゃ、バスケ頑張って』

『ありがとう』

んで、自転車にまたがって私は来た道を帰った。

数メートル先で杖をついたお婆さんを追い越した。

私のずっと言えなかった気持ちは距離にすると
ほんの数メートルだった。


ブレーキをかけて振りかえる。

ソースケ君は再び消えそうなツブになっていた。

これが私とソースケ君の距離だった。

振り返って目を細めたコトを少し後悔した。


こういう背中は記憶に残るのだから。

(回想中断)






恐る恐る医学書から顔を上げてソースケ君を見た。

彼は勉強していた。

気が付かなかったのかな。

気が付いたのに集中してるのかな。

残念だ。


なんて思うと、また彼が目を上げた。

私はちょっと不自然なくらいガバっと目を反らした。


『あーひさしぶり!』っていうタイミングをすっかり逃した私。






(回想)

家に帰ってから、私は諦め悪くも、電話の音が気になったりした。

やっぱ付き合いたい。

そういう電話がかかってくるかもしれないと。

なんでそう思ったのか分からないけど、
そう思わずにいられなかった。

外にも出かけず、彼の電話を待った。

音が鳴るたびドキドキした。

一番に取っては落胆した。

電話なんてくるわけが無かった。


(回想終了)






この恋が駄目なんだって納得できるのは
きっとその人を好きな限り永遠に来ないんだろうなと思う。

時が過ぎて薄れて、忘れて、なんかの拍子にふっと思い返して気が付く。
あの恋は駄目だったんだなって。



でも、まぁ、告白はして良かったなって思う。





あ。


まって。




そうそうそう!

ムカツク事が一つだけあった。



私がソースケ君に告白してから、全然クラスの飲み会に誘われなくなった。



つーかさ、そういう気遣いが一番うっとうしいっつーの!


この前同じ高校やつと飲んだとき、同じA組のやつもいて、
そいつがポロッと『この前のA組飲み会超うけた!』って。

え?やってんの?飲み会?

つーか私思いっきりA組なんですけど?

『あれ?はいね忙しかったんじゃないの?』

『あーそうだったかも』

とか言いつつ、誘われてないっつーの!!



とか思い出したら段々ちょっとむかついてきた。

つーかさ、誤解してんじゃないの?

今なんて全然何とも思ってないっつーの。

そんなずっと好きなわけないじゃん。

年単位で人を好きになったことなんてないっつーの!


まだ好きだとか思ってるわけ?
つーか傷つけちゃったとか思ってるわけ?

そういうの超うざい!


つーか、

そうだよね。

その通りだ。


こんなやって気を使うのなんて変。

話し掛けりゃいいじゃん。

あ、ソースケ君久しぶりーって。

もうワダカマリありません。
告白したことなんてあったかしら。

そんな顔で話かけてやればいいのよ。


こんなやってイジイジして、まだ好きとか、まだ電話待ってるとか、もしかしたら付き合えるかもなんて思われちゃたまんない!


私は医学書をバタンと閉じた。


心拍数は上がっていくけど無視。
私は冷静。
ソースケ君は只のクラスメート。
もとクラスメート。
たまたま図書館で会った。
印象が薄すぎて一瞬分からなかったけど、
やっぱりソースケ君っぽい。
だから声をかける。

なるべく軽く。



よし。

私は溜息をついた。
静かに深呼吸をする。




そしてソースケ君を見る。

まるで今気付いたような声。
まるで今気付いたような表情。
まるで今気付いたような目。



『あ、ソースケ君じゃん!?』

チョット棒読みになった。

でも言った。

ソースケ君が顔を上げる。


目眩がする。
血流が台風で増水した江戸川みたいになる。


『ひさしぶりー。元気?』

ソースケ君はちょっと驚いた顔。

やっぱ気付いてなかったくさい。

『あ、あぁ』

なんてシドロモドロナ返事。

『こ、こんなとこで会うなんてビックリ。なんかさー似てるなぁって思ってよくよく見たらホントにソースケ君なんだもん。懐かしいね。っていうか勉強してるの?』

似てるなぁって思ってっていうのは余計だったな。
なんか私ちょっと興奮しすぎ?
もっと冷静に喋りたかったけど、なんかすげえ弾丸トーク(しかも一人)しちゃってるよ。

あー高校と変わらない。

ソースケ君はとりあえず、勉強してるの?っていう問いに

『あー、はい』

とかワケの分かんない返事。

なんだか、結構ヘボいムード。
話し掛けない方が良かったかもっていう後悔。

もしかして告白断ったこと、結構後ろめたく思ってる?
もうどうでもいいのにソンナコト。

つーかそんなにウジウジした女じゃないのに。
むかつくなぁ。

しかも、そのチョット困った顔、なんなの?

私は喋りかけ続けた。

『大学で気になるって子とはどうなった?あ、別に気にしてる訳じゃなくて、えーっとちょっと心配っつーか、あ、いま不意に思い出したんだけどね。えっとさー、ほら私も今彼氏いるし、あ、でもあんまうまくいって無くて、チョット愚痴りたいっつーか、あ、まぁ幸せなんだけどね。つーか看護婦にもなったし』

かなり余計な事を一気に喋った。
なんかよく分からないけど必死だった。

ソースケ君に対する興味と、自分が幸せだって事をアピールしたい思いとがごっちゃになって、イラナイコトばかり喋ってしまった。(嘘までついた)


こういうのを墓穴って言う。


ソースケ君の顔は困ったまんま。
あー話し掛けなきゃ良かった。



そう思った時、ソースケ君が口を開いた。



『あー、あの、えっと、誰だっけ?』








What?








私の人生の中でこんなに衝撃的だったことはない。


つーか今、『誰?』って聞いた?
この私に向かって?


誰ってっちょっとあんたねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!


はいはい私が勝手に好きになって勝手に告ったけどさー。


『は?加藤だけど』

思いっきり邪険な顔で言う。

ソースケ君は自分の記憶を必死に辿る顔。

ふざけんな!
思い出、台無し。


『つーかソースケ君さー!』

『あのさー、ソースケって誰?』








What?









さっきの間違えた。
こっちが人生最大の衝撃だった。




『サエキソウスケ君でしょ?』

『タケダマサオです』



あ、やっぱコレが人生最大。







(回想再開)

走ってくる先輩。

『加藤!あんたさー!田中さんを橋本さんのベッドに連れて行ったでしょ?
橋本さんが寝れないって困ってるんだけど!』

『え?橋本さん、さっきベッドに連れて行きましたけど』

『だーかーらー!アンタが連れて行ったのは田中さん!!!いい加減、患者の顔覚えなさい!』


私には田中さんと橋本さんがまったくの同一人物に見える。

つーか患者さんのほとんどが4種類くらいのパターンに見える。
カフェスタみたいに。

だから靴の色や喋り方、着ている服で患者さんを覚える。

(回想終了)




私は人の顔を覚えるのが得意じゃないのは自覚していた。

つーか老人相手だからだと思っていた。


確かにマッチと緒方直人を同一人物だと思って
『マッチが「同級生(ドラマ)」に出てた』
とか言ってクラスから紙くずを投げられたこともある。


最近では田辺誠一と豊川悦司の見分けがつかない。

芸能人で遠い存在だからだと思ってた。


でも、まさか、好きだった男の顔まで間違えるとは。





静かな図書館で、

私とソースケ君の思い出と、

赤の他人のタケダマサオが、

交錯する。


私は次の言葉も発せずに立ち尽くしていた。









『つ、つーかソウスケ君でしょ?』

『違います(キッパリ)』

二度否定されても信じられない。




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