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   ・・・・・・・  ○

チャンネルは意のまま

出会って頃の笑顔を見せて!


アンニュイな体。


柳葉敏郎が好きだ。

ああ好きだ。


でもそろそろ潮時を感じている。

潮時を感じてるというより、感じなくてはならない年頃かなあと思っている。






昨日、友達から電話があった。


通話ボタンを押したとたん

『私、酔っちゃってさあ!』


いきなりですか。


そこで言葉はとぎれて、私そっちのけで向こうでゲラゲラ笑ってる。

なにやら、男性の笑い声も混じる。

涙が出るほど楽しそう。

私はお部屋でウンナンの社交ダンス部を見ていて、つい先ほどのゴルゴの闘牛に思いっきりかすってる様子を見て、今日は幸せだなあなんて思ってたところで、

楽しさレベルちげぇ!


『んでさー、これから友達とハイネんちに行ってもいいー?』

ホントいきなりですねー!

そっちとこっち温度違いすぎだから。
全然分かり合える気しねぇから。

『ちょ、ちょっとさー、今、無理かも・・』

自分で言っててノリ悪ぃぃって思って

『あ、ごめんねぇ』

って付け加えようとした瞬間

『じゃあタケくんにかわりまあす!』

『え・・ちょ・・』(すげぇ自由だなあ)

『タケでーす!えっとこんばんわぁ。ハイネさんっていうんですか、すげえ珍しい名前だねー、遊びに行っちゃだめですかー?』

あー・・・

男と電話久しぶり・・。

語りかけてくる生声・・どこの誰だか知らないけどありがとう。


『(ワントーン高い声で)え・・えっとぉ駄目っていうかね・・あのね・・』

『なんでだよぉ、いいじゃんいいじゃん。女の子の部屋行きたいなあ』

女の子!

そうだった。

私、女の子だったんだ。

きゅーんんんだ、重ね重ねありがとう。


『で・・でもね・・急だしぃ』

『はいねさぁーん!僕たちハイネさんの部屋みたいんだよぉ、凍えちゃうよぉ』

あっあっあっ

僭越(せんえつ)ながら暖めてあげたい。

私で良ければ、是非!

私のお部屋で!

私のお部屋で?

クエスチョンを右壁に問いかけると、ファイティングポーズのボブ(サップ)が『オーケーオーケー』って言ってる。


マ・ジ・デ?


おめぇ居たら駄目じゃね?

むしろKOじゃね?


無駄に赤い情熱ばかり先走ったベッドの上には、すげぇ乙女チックな漫画が、今まさに放課後の教室で熱い告白をうけてる。


高校生の愛だの恋だのに頬赤らめてる場合じゃなくね?


『はいねさーん?聞こえてる?』


聞こえない。

私は通話を切った。




全然、駄目じゃねぇ?


一人暮らしを始めたとき、私は何を思ったっけ?


一人で暮らすことによって、親の監視の目を離れ、自由に、そして奔放に、そして愛に生きるんじゃなかったっけ?


そのつもりで買った、赤いベット。

赤い鏡。

赤いゴミ箱。


ラブホテルの住んでるような、そうエマニエル婦人のような日々を過ごすって誓ったんじゃなかったっけ?


自分にビンタしてぇ。



彼色に染めてもらうはずの部屋が、もうすっかりカラシ色。

甘美なき方向に自堕落。



つーかさ、なんでボブなんて貼ってるんだっつーの。泣きたいよ。

少女漫画にニヤついてる場合かっつーの。

ベンジャミン、手入れしなさすぎて茎が巻いてないっつーの。

机にはお饅頭だっつの。洋菓子食えっつの。

パンツ一丁だっつーの。

柳葉敏郎のCD飾りすぎだっつーの!


ギバはさあ、歌うんだよ。
一世風靡じゃなくて、ピンで。
CDもさー結構出てたりしてさー、名前のイニシャル順にリリースしてるわけ。

「Y」

「A」

「N」

「A」

「G」
 ・
 ・

それがさぁ本棚陣取ってるのって、やっぱ正しい乙女としてはちょっとセピア寄り。

もっとムネキュンなピンクな可愛いデートのもどかしい女心とか、なんで会えないのぉみたいな切なさとかを歌ったものをチョイスするべきだし、

男の生き方がどうだとか、一人飲む酒がどうだとか、おまえの背中がとか、あまつさえ、ソイヤソイヤソイヤハッとかは、やっぱ被ってないよねぇ乙女と。

うん、知ってる。




一人で暮らすと、色んな事が今までよりずっと自由でさ、

王様でさ、

生活たるやすげぇ人間っぽくって、

でも人間と女ってチョット違うらしくって、

どの辺までが女として許されてるかだとか、

常識的なマナーだとか、

どこもかしこも緩くなっていくわけで。

曖昧で。




んで緩くなるのは感覚だけではないわけで。




この前、患者さんですげぇ血管の細い人が来て、

もう糸くずみたいな血管で、

それはそれは注射しにくい腕を持った人で超看護婦泣かせ。



でも診療所には案の定、私しかいないわけで。


『腕を・・出して・・ください・・』

患者さんはおそるおそる腕を出した。

んで言う。

『もしよかったら、あとでベテランさんが居るときにでも・・出直しましょうか・・?』


プライドが、許さなかった。

敵前逃亡など、できない。



私は摩擦が火を付けそうなほどすげぇこすった。

『あ・・熱っ』  

んで、パチパチパンチ並にすげぇ叩いた。

『い・・イタっ』 


すると真っ赤に染まった患者の腕で、静脈が恥ずかしそうに顔を覗かせた。


けど細ぇ。

しかも曲がってるぅ。

うわー、正直、自信ねぇえ。

でもさんざん叩いた手前、言えねぇぇ・・。

チラリと患者を見る。

あ、笑顔消えてる。

やべ。

結構びびってきた。

針を持つ手がブルってる。


構える。

『大丈夫ですよぉぉ・・』

聞かれてもいないのに言う。
自分に言い聞かせる。


針先に集中する。

集中しすぎて、針先が二重に見えてくる。

『か、看護婦さん、よ、寄り目・・?』

『あ、鼻先見ちゃった、じゃあ行きますよ、ちょっとチクッとしますよ・・』

アルコール綿で目当ての場所を消毒する。

よし。

いくぞ。

あれ・・どこに行くんだっけ?
消毒したら、血管見失ったっぽい。

えっと・・

もそもそ探す。

よし、ここだ。

もう一度、仕切直しに消毒する。

『じゃあちょっとチクッとしますよ・・』

いくぞ。

あれ・・?

また見失った。

消毒すると分からなくなるなあ。

マジックで点つけてぇ。

『あの・・まだですか・・?やっぱりベテランの・・』

『大丈夫です、行きます!』

私は再び消毒するふりをして、爪先でバッテン付けた。

『イタッ、今なにかしました?!』

『気のせいですよー、じゃあ、チクッとしますよ・・』

患者の腰は引けてる。

私の腰も引けてる。

その腰を引いた曖昧なスタイルがまさに引き金を引いた。

注射針を思いっきり患者の柔肌に突き立てた。


プチ!


ジャストミートっ!!!


力が入る。

私は見事、患者の糸ミミズの様な血管を捕らえた。


力が入って、ホッとした。


ホッとした途端、





ふぁ。





あれ?私すかした?





わ!

ガス漏れ。

でもセーフっ!セーフっ!

音しなかった!


私は動揺して、それを隠すために

『いやー寒くなりましたねぇ』

なんて変な会話を繰り出した。

患者はちょっと頬を緩ませて

『そうですねぇ』

なんて社交的な相づち。

一見、平和そのもの。

でもお互いに思ってる。





なんか・・臭ぇ・・・





もうさ、何食べてるのかっつーか、腹の中に何飼ってるのかっつー獣臭。


かもし出した本人すらもビックリ。


しかもさーこの処置室に人間は二人なわけ。

食うか食われるかなわけ。

んで二人とも「こいつ・・」って疑ってる。

つーか私は思いっきりフッタ側なのだから、疑う余地なんてないわけだけど、なんとなく悔しいから、こいつ・・って顔で患者を見てみた。

見てみたけど、腹がまたすごく張ってきた。

でも針はまだ患者の血管に突き刺さったままだし、こっから注射液を押し込まなくてはいけないし、それはゆっくりやらなくてはいけない。


血管を逃さないためにも、動きは取れない。


ケツを振って、腸を慰めて、事なきを得たい。


でも動けない。

腰を引いてたから、ケツを突きだした姿勢で動けない。


あ・・すげぇ張ってる。


張ってるし暴れてる。


七匹の子ヤギの家のドアをノックしてる。

甘い言葉で忍び寄る。

時計の中に隠れなきゃ。


私は注射器のシリンジをゆっくり押した。

押すときに若干力を入れなくてはならないし、力を入れて液を押さなくては注射は終わらない。


私は微妙なさじ加減で、力を入れた。


肛門にも力を入れて、閉めた。

力と力のコラボレーション。





バフ。






すげぇ静かだった。
丁度、お互いがお互いを疑い合う沈黙だった。


つーかちっとも閉まってねぇ!

犬が吠えたのかと思った。



慌てた。

慌ててシリンジを押した。

押すたびに、止めどなく押した量と比例するようなか細い音がこだました。


尻のコントロールがさっぱりつかねぇ。

もういっそ思う存分やっちまえよ!って思ったけど、それも叶わず、ケツの内緒話みたいな気まずい音が連呼した。



いたたまれない。

言い訳もできない。

恥ずかしいし、逃げたい。

患者だって、逃げたい。

明らかに息を止めようとしているし、息が持たなくてときどき大きく呼吸してる。


固形の王様をお出迎えするファンファーレのようなラッパ音が響く中、針の刺さった患者も、刺している私も微動だにできず耐えた。





緩んでいる。


生活が、緩んでる。



ああ、叶姉妹と血のつながりを持ちたい。






そうぼんやりと思う仕事中に気が付いたら、指が右鼻に入っていた。




いつから入っていたか、さっぱり覚えていない。



柳葉



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